ジャンヌ・モロー

Jeanne Moreau
黒のマドモアゼル ジャンヌ・モロー




『マドモアゼル (1966) 』

大女優ジャンヌ・モロー(Jeanne Moreau, 1928年1月23日 - )
世界の女優の中で最も美しい名前を持つユニークな演技派女優。
髪は栗色で、眼は大きく、深く、強い視線、唇の両隅が下がりへの字、グラマーではない、アンバラスな、美女とはいえぬジャンヌ・モロー。映画女優として注目を集めたのは、29歳のときのルイ・マルの「死刑台のエレベーター」に主演してからであるが、すでにジャンヌ・モローは、当時のフランス演劇界のエリート中のエリートでジャン・ヴィラールの国立民衆劇場の中心的女優であり、ジェラール・フィリップなんかと主役を分かち合うほどの大舞台女優であった。それにしても、彼女の映画キャリアは凄い!ミケランジェロ・アントニオーニ《夜》(1961)、ルイ・マルの《死刑台のエレヴェーター》(1957)、《恋人たち》(1959)、《ビバ!マリア》(1965)、ジョゼフ・ロージー《エヴァの匂い》(1962)、フランソワ・トリュフォーの《突然炎のごとく》(1963)と《黒衣の花嫁》(1968)、ルイス・ブニュエル《小間使いの日記》(1964)、ピーター・ブルック+マルグリート・デュラスの《夜霧のしのび逢い》 (1960)、オーソン・ウェルズ《不滅の物語》(1968)…、など、さすがの大監督たちもジャンヌ・モローの破格の演技力に負うもの大である。さらに、自分でも2作、監督をしている。



フランス中央部の小さな村にマドモアゼルと呼ばれる女教師がいた。彼女はオールド・ミスだったが、村人から敬愛をこめてマドモアゼルと呼ばれ、まさに淑女として扱われていた。村にはイタリア人マヌーが息子のブルーノ、友人のアントーニオをつれて出稼ぎに来ていた。そのころ村では、水門が破られたり、原因不明の火事がおきるなど悪質ないたずらが相次いで起こる。



『マドモアゼル (1966) 』 *国内ソフト未発売

監督: トニー・リチャードソン
製作: オスカー・レヴェンスティン
脚本: ジャン・ジュネ/マルグリット・デュラス
撮影: デヴィッド・ワトキン
 
出演: ジャンヌ・モロー/エットレ・マンニ/ウンベルト・オルシーニ/ジェラール・ダリュー

「ジュネの小説は、愛のない女になにがおこるか示している。彼女の邪悪な本質を容赦なく掘り下げ、ほかの作品に見られないリアリズムで描写した作品。」(公開時、ポスター)



ジャンヌ・モローの代表作ともいえる衝撃作!脚本がアノ、異色の作家、男色家で泥棒のジャン・ジュネで、ジャンヌ・モローのために初めて書いた映画の脚本を、「ホテル・ニューハンプシャー(1984)」「長距離ランナーの孤独(1962)」のイギリスのニューウェーヴの旗手、トニー・リチャードソンが監督。フランスを代表する演技派の女優ジャンヌ・モローの、この取り澄ました表情と美貌の底に秘めた邪悪な心を、これほどまでに完璧に演じられるのは彼女をおいて他にいない。モローはこの役が大嫌いだといったが、この映画は作りたかった。
「これはきれいな映画じゃないわ。ジュネのエロティズムは猛々しくて、暴力的な要素がたくさんはいっているのよ。撮影は楽しいどころか苦痛だった。むずかしいし不健康な役どころですもの。彼女はすごく不幸なのーあんな女性にはなりたくないわ。抑圧されたバージン、まるでドライフルーツよ。映画が始まるまではどんな役柄になるのか完全にはわからないの。だから監督が重要なのよ。私は、トニーを全面的に信頼していた。彼にはどこか神秘的なところがあって、ぜひこの役をやるべきだと彼に言われたからやったのよ。トリュフォー、ブニュエル、オーソンにも同じ感じを持っているわ」



当時、ジャンヌ・モローとトニー・リチャードソンの二人は恋愛関係にあり、カンヌ映画祭に出品したが、ポルノ映画だと決め付けられさんざんなえ映画評で、興行的にも失敗した。モローでさえジル・ド・レの女版だとまで非難され、モローの才能と仕事を選ぶ能力さえ疑われた。当時のご時世を考えるにこの傑作のインモラルなテーマは、迫害に近い仕打ちにあったのかもしれない。しかしながら二人は、彼女の友人のデュラスの『ジブラルタルの水夫』の映画化(「ジブラルタルの追想(1965)」)に成功した。この映画には、トニー・リチャードソンの当時の妻ヴァネッサ・レッドグレーヴも起用されモローに夫を奪われる役どころで、スキャンダルから離婚にまで発展した。トニー・リチャードソンは1991年、エイズによる合併症で亡くなっている。
美しいキャメラは、ピーター・ブルック監督の「マラー/サド」で有名になり、後に「炎のランナー」「ホテル・ニューハンプシャー」を手がけ「愛と哀しみの果て」でアカデミー賞を受賞した英国人撮影監督のデヴィッド・ワトキン。音楽は一切使われていない。









しかし、彼が来てからというもの、村では水門が破られたり、原因不明の火事がおきたりで、村人たちは、よそ者の彼が犯人ではないかときめつけていた。村で災難が起るたびに、半裸でかいがいしく働くマヌー。そんな彼を、マダモアゼルはいつも遠くから見続けていた。






息子のブルーノ、友人のアントーニオをつれてこの村に出稼ぎに来ていたイタリア男マヌーの野性的な魅力が村の女たちの目を惹いたのは言うまでもない。





マダモアゼル--この神秘な美しさを持つ女の秘密を知る人は誰もいなかった。昼の彼女はストイックかつ修道女のように清らかな小学校の女教師である。しかし、彼女こそ、すべての災難の犯人だったのだ。夜になると厚化粧に身をやつし、凝ったデザインをほどこしたマッチを持ち、ひそかに農家へ放火しにいく女。









父はレストラン経営者、母は元ダンサー。18歳の時に見た舞台で演劇の世界に魅了され、女優を夢見るように。厳格な家庭に育ちながらも女優への夢を断ち切れず、結婚式前夜に婚約指輪をセーヌ河に投げ捨て夜行列車に飛び乗ったというエピソードを持つ。いろいろ悩んだ末にやっと両親も理解を示し、コンセルヴァトワールに入学。2年後に卒業してモリエール劇団に入る。ヌーヴェル・バーグ最盛期から現在に至るまで、第一線で活躍を続ける彼女には、情熱的なドラマが最高によく似合う。48年映画デビュー。54年の「現金に手を出すな」ぐらいから名前が知られるようになるが、その頃は色気を売り物にした女優の認識が強かった。しかし57年、ヌーヴェル・ヴァーグの到来と共の現れたルイ・マルとの出会いによって「死刑台のエレベーター」、「恋人たち」に出演。60年には「雨のしのび逢い」でカンヌ映画祭の主演賞を受賞。61年にはトリュフォー作品の「突然炎のごとく」にも出演。退廃的ではあるが一本芯の通った女性像を演じて当時の映画ファンから絶大なる支持を受けた。62年の「エヴァの匂い」での悪女ぶりも忘れ難い。70年後半からは「ジャンヌ・モローの思春期」などで監督業にも進出。以降は次第に脇役にまわるようになるが、90年の「ニキータ」のように印象的なシーンに貫禄を持った演技で出演し、作品に深みを持たせている。デザイナーのピエール・カルダンやトニー・リチャードソンなどとのロマンスは有名だが、結婚は48年、ジャン=ルイ・リシャールと結婚して一児をもうけるが65年に離婚。77年にはウィリアム・フリードキン監督と再婚するが2年後に破局している。

・ベルリン国際映画祭(金熊賞(生涯功労賞))(2000)
・ヴェネチア国際映画祭(経歴賞)(1992)
・カンヌ国際映画祭(女優賞)(1960)




     1948年「DERNIER」
    1953年「寝台の秘密」「巴里の気まぐれ娘」「上級生の寝室」「現金には手を出すな」
    1954年「バルテルミーの大虐殺」
    1955年「狩込み」「地獄の高速道路」
    1958年「死刑台のエレベーター」「絶体絶命」「恋人たち」
    1959年「危険な関係」
     1960年「雨のしのび逢い」「五人の札つき娘」
    1961年「夜」「突然炎のごとく」
    1962年「エヴァの匂い」「審判」
     1963年「鬼火」「勝利者」
    1964年「小間使の日記」「大列車作戦」「バナナの皮」「黄色いロールスロイス」
    1965年「マタ・ハリ」「ビバ・マリア」
    1966年「マドモアゼル」「オーソン・ウェルズのフォルスタッフ」
    1967年「ジブラルタルの追想」「愛すべき女・女たち」
    1968年「黒衣の花嫁」「キャサリン大帝」
    1970年「モンテ・ウォルシュ」
    1972年「ナタリー・グランジェ/女の館」
    1974年「バルスーズ」「個人生活」
    1976年「LUMIERE」「パリの灯は遠く」「ラスト・タイクーン」
    1980年「スキャンダラス・ラブ」
    1982年「ファスビンダーのケレル」
    1990年「ニキータ」
    1991年「厚化粧の女」「夢の涯てまでも」「こうのとり、たちずさんで」「海を渡るジャンヌ」
    1992年「愛人/ラマン」
    1993年「心の地図」
    1995年「愛のめぐりあい」「百一夜」
     1997年「奥サマは魔女」「愛と困惑」
    1998年「エバー・アフター」
    2000年「レ・ミゼラブル」(TM)
    2001年「デュラス 愛の最終章」「銀幕のメモワール」
    2005年「ぼくを葬る」








そんな彼女の正体を見破ったのは教え子のブルーノたった。しかし、マドモアゼルに、あこがれに近い恋心を抱く、この少年は何も語らなかった。











マドモアゼルは、マヌーが木こりとして働く森によく散歩に行き、道で彼に出会うことも、しばしばだった。そして彼女は欲望を自制しようとすればするほど、マヌーの肉体を求めるのだった。彼女が毒薬を入れた池の水を飲んで家畜が全滅した日、村人たちの怒りは爆発し、犯人と目したマヌーを捕えることにした。









その頃マドモアゼルは森でマヌーと逢っていた。野性の女と化したマドモアゼルは、夜がしらむ頃までマヌーの肉体を求め、朝になって、引き裂かれ泥によごれた衣服のままで村に帰って来た。驚く村人たちの質問に彼女は、マヌーに暴行されたと語った。そしてマヌーは村人のリンチでなぶり殺された。













悪夢のような夏がすぎ去る頃、マドモアゼルは、おしまれながら村を去った。だが、彼女の正体を知っているブルーノだけが、彼女の後姿に、ツバを吐きかけるのだった。





「世間は、映画の中で風変わりな人物を演じる私を見すぎているのよ」





「歌う女優」としては、ジェーン・バーキンと双璧を成す彼女だが、音楽の方も実にクオリティが高い。ジャンヌ・モローの代表曲で、 映画「突然炎のごとく」の主題歌「つむじ風」が1曲目に収められているCD。22曲目のインディア・ソングは、ラマン「愛人」の作者、マルグリット・デュラス自身が監督した同名映画の主題歌。またシャンソンにも造詣が深く、アルバム『Les Chansons De Clarisse(クラリッスの詩)』は必携モノの出来映え。ザラリとしたどこか知性を感じさせる声質と軽妙なタイム感――歌い手としても実に洒落たジャンヌの感覚に惚れ惚れすること間違いなしだ。
強い意志を感じさせる大きな瞳とへの字口は、多くのシワが刻まれた現在でも十二分に魅力的である。







死刑台のエレベーター (1957)
監督:ルイ・マル
主な出演者:モーリス・ロネ/ジャンヌ・モロー/ジョルジュ・プージュリー
巨匠ルイ・マル監督が25歳の時に撮った処女作品。行き先を失った都会の男女の心情を描く。



恋人たち (1958)
監督:ルイ・マル
主な出演者:ジャンヌ・モロー/アラン・キュニー/ジャン=マルク・ボリー



雨のしのび逢い (1960) /マルグリッド・デュラス
監督:ピーター・ブルック
主な出演者:ジャンヌ・モロー/ジャン=ポール・ベルモンド/ディディエ・オードパン



夜 (1961)
監督:ミケランジェロ・アントニオーニ
主な出演者:マルチェロ・マストロヤンニ/ジャンヌ・モロー/モニカ・ヴィッティ
愛を失った夫婦が失った愛を取り戻すため虚しい試みを繰り返す…。ミケランジェロ・アントニオーニ監督が“愛の不毛”をテーマに、人間の孤独と愛の断絶、不安と共感を描いた作品。



突然炎のごとく (1961)
監督:フランソワ・トリュフォー
主な出演者:ジャンヌ・モロー/オスカー・ウェルナー/アンリ・セール
フランスを代表する映画監督、フランソワ・トリュフォーが残した珠玉のラブストーリー。奔放な愛し方しか知らない女をめぐる二人の男を描く。ジャンヌ・モローほか出演。



エヴァの匂い (1962)
監督:ジョセフ・ロージー
主な出演者:ジャンヌ・モロー/スタンリー・ベイカー/ヴィルナ・リージ
兄の遺稿を自分の作品であると偽り、作家デビューを果たしたティヴィアン。新作が一向に書けない彼は、ある日エヴァという魅惑的な女性と出会い、虜になってしまった…。男を狂わせる魔性の女エヴァをJ・モローが熱...





小間使の日記 (1963)
監督:ルイス・ブニュエル
主な出演者:ジャンヌ・モロー/ミシェル・ピッコリ/ジョルジュ・ジェレ
若き日のジャンヌ・モローが主演した、ルイス・ブニュエル監督の作品。ミシェル・ピコリ、ジャン・クロード・カリエールほか共演。



鬼火 (1963)
監督:ルイ・マル
主な出演者:モーリス・ロネ/ベルナール・ノエル/ジャンヌ・モロー
エリック・サティの「ジムノペディ」が虚ろにこだまするパリにつづられる絶望と空虚の物語。ドリュ・ラ・ロシェルの『ゆらめく炎』を原作に、淡々と冷たく、人生の無為が、モーリス・ロネ演じる男に表徴されてゆく。ヴェネツィア映画祭審査員特別賞を受けた、ルイ・マルの巧みさに貫かれた傑作。



ビバ!マリア (1965)
監督:ルイ・マル
主な出演者:ブリジット・バルドー/ジャンヌ・モロー/ジョージ・ハミルトン
歌か革命か冒険か?モロー&バルドー、2大女優世紀の大競演!



オーソン・ウェルズのフォルスタッフ(1965)
監督: オーソン・ウェルズ
主な出演者:オーソン・ウェルズ/キース・バクスター/ジョン・ギールグッド


黒衣の花嫁 (1968)
監督:フランソワ・トリュフォー
主な出演者:ジャンヌ・モロー/ジャン=クロード・ブリアリ/ミシェル・ブーケ



バルスーズ (1973)
監督:ベルトラン・ブリエ
主な出演者:ジェラール・ドパルデュー/ミュウ=ミュウ/パトリック・ドヴェール
フランスの映画界の鬼才、ベルトラン・ブリエが豪華キャストを迎えて映画化した青春ドラマ。出演はジェラール・ドパルデュー、パトリック・ドヴェールほか。



ファスビンダーの ケレル (1982)
監督:ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー
主な出演者:ブラッド・デイヴィス/ジャンヌ・モロー/フランコ・ネロ



ぼくを葬る(おくる) (2005)
余命3か月と宣告された31歳のフォトグラファーが、死に直面したことにより自分自身を見つめ直す姿をつづったヒューマンドラマ。
監督 フランソワ・オゾン
出演 メルヴィル・プポー 、ジャンヌ・モロー 、ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ




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